スターバト・マーテル(ドヴォルザーク作曲)解説
 「スターバト・マーテル」(悲しみの聖母)は、十字架にかけられたイエス・キリストの足元で、聖母マリアが我が子の死を嘆き悲しむ様子を描いており、歌詞は中世の典礼文で、聖母マリアの7つの悲しみの祭日のための続唱、聖金曜日の聖務日課の聖歌という2つの場面で用いられる。
 12世紀ごろからヨーロッパでは、この「スターバト・マーテル」をテーマとする文学・絵画・彫刻・礼拝が数多く生み出されるようになった。音楽では当団が2002年にチェコで演奏したロッシーニをはじめとして、記録に残っているものだけでも現代に至るまで400人以上の作曲家によって継続的に作曲され続けている。CDでも実に140人もの作曲家による演奏が残されており、中には日本人作曲家による作品もある

ロッシーニ作曲 
(2002年、チェコで演奏)

1831年、「スターバト・マーテル」の作曲を依頼されたロッシーニ(1792−1868)は当時、腰部神経痛に悩まされ、精神的にも不安定になっていた。そのため、依頼者からの催促にもかかわらず筆が進まず、全12楽章のうち6章を友人のジョヴァンニ・タドリーニに依頼し、1832年に初版を完成する。その後タドリーニによる部分を加筆し、12楽章を10楽章に区分けしなおし、1841年に第2版を完成した。現在演奏されるのはこの第2版である。第2版の初演は1842年1月7日、パリのイタリア劇場で行われた。

 非常に美しい旋律と明るい色彩を持つこの作品は、合唱・独唱・重唱により演奏される。全10楽章のうち、コーラスが伴うものは計5曲で、このうち2曲はア・カペラ(無伴奏)で歌われる。

ロッシーニ作曲
(2004年、ポーランドで演奏)
 ドヴォルザーク(1841−1904)は1875年、生後2日目で亡くした長女の死をきっかけに、この作品の作曲に着手した。その後、さらに次女、長男の相次ぐ死による中断を経て1877年に「スターバト・マーテル」は完成し、1880年12月23日、プラハの音楽芸術家協会の定期演奏会で初演された。
 管弦楽と合唱、それに4人のソリストで構成されるこの曲は全部で10楽章あり、合唱と四重唱2曲、合唱のみ3曲、四重唱のみ1曲、バスと合唱1曲、テノールと合唱1曲、ソプラノとテノール1曲、アルト独唱1曲からなる。なかでも第1曲(四重唱と合唱)は20分以上に及ぶ壮大なものである。
 信仰心厚い彼の深い悲しみに彩られたこの作品は、非常に美しく、また近代チェコ最初のオラトリオ作品として大変親しまれている。「スターバト・マーテル」を題材にした膨大な作品数の中で、演奏時間がもっとも長いのが、このドヴォルザークによるものといわれている。



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